※アルフィノ君は、弱冠11歳にしてシャーレアン魔法大学に入学し、魔法学やエーテル学、史学などの複数の分野で修士号を取得する天才だよ!わからないことは彼に聞こう!!
アルフィノ(以下、アル)「では早速、エオルゼアの歴史学について話していきたいと思う」
リセ「わー!助かるよ、アルフィノ!」
アル「でも正直驚いたよ。リセが突然エオルゼアの歴史について学び直したいなんて言うなんて。シャーレアンにいた時は全くといっていいほど学問に無関心だったあのリセが!」
リセ「わぁぁぁ!昔の話はやめてよ!kaedeもいるんだから!」
kaede.Tは笑った。
リセ「…………真面目な話、これからのアラミゴをみんなで考えていかなきゃならない時にさ、アラミゴのこと、そしてエオルゼアのこと、何も知らないですじゃ、それはまずいと思ったんだ。何がまずいのかもわからないけど、なんとなくそう感じるんだ」
アル「………リセ、君のその直感は正しいものだよ。物事を知り、多角的な視点を持つことは、リーダーにはとても大切なことだ」
リセ「リ、リーダーなんてやめてよ!ただ私は私個人として色々なことを学ばなきゃいけない。彼女との旅を通してそれを新たに痛感したんだ」
kaede.Tはリセにうなずいた。
アル「私に教えを請うようにしむけたのは君の差し金かい、kaede」
kaede.Tは目を逸らした。
アル「はぁ…君がリセに教えたっていいだろうに。まぁでも君に頼られるのも悪い気はしない。しっかりとリセに歴史学とはなんたるかを教え込むとしよう」
リセ「お、お手柔らかにね」
アル「まず色々な話をする前に、根本の話ーー歴史学とは何か?という話からしようか。リセ、“歴史を学ぶ”と聞くとどういうイメージを持つかい?」
リセ「うーんと…なんか事件とか人物とか年号とかをたくさん覚えなきゃいけない感じかな?!私、頭悪いからさ、暗記って苦手なんだ」
アル「確かに“暗記すること”、これは大事だ。知識を下敷きにしない学問なんて究極的には存在しないからね。歴史を考える上でも、それに先立つ知識は多ければ多いほどいい。でも、歴史学は“単なる”暗記科目じゃないんだ」
kaede.Tは賛同した。
アル「我々史学者には当たり前の事実だが、どうも世間一般に理解されていないことがある。それは“歴史は科学である”ということだ」
アル「歴史学を含め、人文科学は人間の行動や営みを研究テーマにすることが多い。えてして情緒的な解釈や分析ばかりがなされているように思われるが、そうじゃあない。歴史学においてはごく単純な史実を求めるのにも、一つ一つ根拠を挙げ、一定の手続きに従った分析を行うことが求められるんだよ」
リセ「うーん…わかるようなわからないような」
アル「歴史も「科学的思考」の積み重ねということさ。科学などというと身構えてしまうが、要するに論理的で理性的な思考と判断が歴史学においても重要なんだ」
リセ「ふむふむ。自分よがりの解釈ではいけないってことか」
アル「そして歴史学では、その科学性の根拠となる歴史史料、つまり「史料」がなんといっても重要となる」
リセ「史料……その史料にはどういうものがあるの?」
アル「例えば、私が戦闘の時に使用している本。あれなんかも実は貴重な史料なんだよ」
リセ「え?!学者や召喚士の武器が史料なの?!」
アル「例えば、「アルマンダル」なんて本は、四体の蛮神の召喚について記された古代アラグ時代の書物なんだ。アラグ時代のことを知るための貴重な史料ともいえる」
リセ(そんな貴重な史料を戦闘で使っちゃっていいのかな…)
アル「アウラ族の天才技師が約100年前に記したとされる「エニグマ・コーデックス」なんかも、100年前の科学思想史を知るための貴重な古書だ」
アル「kaedeのような冒険者は、その職業柄、沢山の史料を持っている。古代都市ニームで編纂された軍学大全「マダムレジエン」、500年前に記された古文書「戦技法手継文書」など、私も見せてもらったことがある。「ストレイキヤ」みたいな軍学書も史料といえば史料だね」
リセ「kaedeが歴史に興味あるのも、身近に史料がたくさんあるからなのかな?」
kaede.Tはリセに微笑んだ。
アル「でも、そういった史料が沢山あればいいというわけでもないんだ。その信憑性、信頼性が常に問題になる。この史料の信憑性、信頼性を検討することを「史料批判」といって、歴史学における基本中の基本の作業となる」
リセ「史料を集めて終わりってわけじゃないんだ」
アル「そう。学者や賢人達は、史料を集めるだけじゃなく、しっかりと史料批判をして研究をしているんだ。その研究の成果が論文や文献としてまとめられることになる」
リセ「ミトラも最近論文を発表してたけど、こんな大変なことをやってたんだ」
アル「彼女が発表した論文は大変面白かったね。蛮神問題に新たな視点をもたらすものとして学会でも注目されているよ」
リセ「その他にも史料ってあるの?」
アル「ふむ、そうだね。君たちが冒険を通して見ている遺跡や遺物も歴史史料といえば史料だね。あとは…ああ!君もよく見ている雑誌なんかも史料といえるかもしれない!」
リセ「え?!『週刊レイヴン』とかそういうの?!」
アル「そうそう。その他にも有名な雑誌といえば、グローバル情報誌の『ハーバーヘラルド』や、経済情報誌の『ミスリルアイ』などがあるね。エオルゼアの人々が情報源として楽しんでいるこれらの刊行物も、将来貴重な史料になる可能性がある」
リセ「将来……あ!なるほど!何百年もしたら今私たちの身の回りにある何かが史料になるかもってことだ!」
アル「その通り。君が夜な夜な書いている日記も、数百年先まで奇跡的に残っていれば、第七星暦を生きた女性の実態を理解する上で貴重な史料になるかもしれないんだよ」
リセ(アルフィノ…なんで私が日記つけてること知っているの……)
アル「日記の話が出たついでに、回顧録の話もしようか」
リセ「回顧録?日記とは違うの?!」
アル「良い所に疑問を持ったねリセ。そう!そこが大事なんだ!全然違う!何が違うって史料的価値が全然違うんだ!」
kaede.Tはうなずいた。
アル「今、エオルゼアの歴史学会でちょっと話題になっているトピックがある。ついこの間まで私たちも関わっていたイシュガルドでの一連の出来事。それを、当事者の1人でもあるフォルタン伯爵が、回顧録としてまとめていることが最近わかったんだ」
リセ「いいことじゃない!フォルタン家の執事さんも言ってたよ。「過去は未来への道標」だって。「正しき事実を次の世代に語り継いでいこう」って言ってた」
アル「その意識はとても大事だ。正教の聖職者を巻き込み偽りの歴史を作っていたイシュガルドに住まう人々だからこそ、その意識を強く持ち続けなければいけない」
リサ「じゃあなにが…」
アル「“語り継ぐ”じゃ駄目なんだ。何代も何代も語り継がれる中で、どこかで事実ではない話が盛り込まれてしまうかもしれない。誇張されたりするかも知れない。不都合な話はなかったことにされるかもしれない。神話がまさにそうだ。神話は正確な歴史ではない。創作物なんだよ」
アル「回顧録の問題点もそこにある。回顧録とは、記録ないしは文学作品の一形式で、ある事件、事象や時代に関する自らの経験を記したものを指す」
アル「自伝と重なる部分も多いが、自伝が個人生活・内面生活に重点を置くのに対し、回顧録は、社会との関係や、それらに対しての自らの記録や感情・反応などに重点が置かれている」
アル「そして何よりも、回顧録は後日の執筆・編集になるから、記憶の風化や変化が生じてしまうことがある。また意識的に書きたくないことを書かない場合もある」
リセ「フォルタン伯爵はそんなことしないよ!」
アル「勿論私もそう思う。だがリセ、大きな問題はそこではないんだ。エオルゼアの学会が、この回顧録『蒼天のイシュガルド』を「史学的価値の高い史料」として評価していることが問題なんだ。回顧録の史料としての問題点を鑑みることなく、手放しで大絶賛している所に、 エオルゼアの歴史学の危機を私は感じている」
アル「そもそも学者だけでなく、エオルゼア全土において、史料を残すということへの意識の希薄さが目立つんだ。悲しいことにそれは、エオルゼアの歴史そのものが証明してしまっている」
kaede.Tは閃いた。
アル「さすがkaedeだ。そう、エオルゼアには第四星暦について残された史料が全く残っていない。アラグ時代の反動から、過度な文明否定がおこり、貴重な歴史的資料の散逸を招いたといわれている。史料を後世に残すという意識の希薄さを象徴する事例だろう」
リセ「うーん。なんでなんだろう。歴史を後世に伝える重要性は私でもなんとなくわかるのに」
アル「理由はいくつか考えられる。まず、第三星暦の時代のことだけを考えてみると、歴史“書”というものが必要なかったんだと思う」
アル「アジス・ラーに行った時のことを思い出してごらん。古代アラグ時代の記憶媒体を見ただろう。あれがまさにあの時代の史料そのものといえるんだ」
リセ「でも、壊れてるものがあったり、音声が聞き取れないものもあったよね」
アル「まさにそこだ。アラグの技術力をもってしても、未来永劫情報を正確に記憶し続けることはできなかったってことだ。そのことに気づき、記憶媒体からアナログな紙媒体に転写するような人も第三星暦にはいなかった」
アル「高度な科学力を盲信しすぎた結果、歴史を顧みなくなったこと。この事実を我々は肝に銘じなければならない」
リセ「そうだね。……うん、忘れちゃ、いけない」
アル「さらに、エオルゼアには記憶を残せる媒体が多く存在している。このことも歴史意識の希薄さに繋がっていると私は考える」
kaede.Tは胸のソウルクリスタルをそっとさわった。
アル「kaedeも持っているソウルクリスタル。これは肌身離さず所持し続けることで魂を構成する波形を転写し、完全ではないにせよ記憶の断片を封じることができる」
リセ「そうか。紙に文字を記さなくても、記憶を残せる媒体がエオルゼアにはたくさんあるんだ。そういえばロウェアが集めているトームストーンも古代アラグ帝国時代の記憶媒体だったね」
アル「元も子もないことをいえば、光の戦士の存在そのものが歴史意識に対する希薄さの象徴であるともいえる」
リセ「あ…過去視…越える力か….」
アル「極論を言えば、過去を見通せる越える力さえあれば、史料なんてなくてもいいわけだ。歴史学という学問自体がいらなくなる」
kaede.Tは立ち上がった。
アル「………君がそんなこと思ってないのは百も承知さ。気分を害したのならすまない」
アル「光の戦士だけじゃない。ここエオルゼアには、長寿のドラゴン族もいる。彼らの記憶や詩の方が人が残す史料よりよほど信頼性が置けるとも考えられるだろう」
kaede.Tは首を振った。
アル「そうだね。だからといって、私達が歴史を手放してはいけない。後世に正しい史実を伝えることも私達学者の大事な使命だ。二度と竜詩戦争のような悲劇を繰り返さないためにも」
リセ(そういえば、kaedeから紅葉戦争の話を聞いたことがある。この戦争でもアラミゴとグリダニア、双方の歴史認識の齟齬が生じていたんだっけ…)
アル「イシュガルドの地を旅していた時、ある1人のグナース族に出会った。彼は私にこう言った」
ストーリーテラー「消してはならぬ、大切な記憶は、文字を使って記しておかねばなるまい。ゆえに我らはヒストリアンに、しっかりと書き記させているぞ?」
アル「繋がりしグナース族は、太古の昔より同一人格が存続しているといわれている。しかし、人が古い記憶を忘れるように、グナース族であっても遠い過去の出来事は忘却の彼方に追いやられる。だからこそ、分かたれしグナース族は、歴史を残すことの重要性を誰よりも知っているんだ」
アル「歴史といっても人の歴史だけじゃない。獣人の歴史を知ることも、人と獣人の相互理解には必要となると私は考える」
リセ「そう考えると、人の歴史もアラミゴの歴史だけを学んで終わりではいけないってことだね。色々なものの見方、考え方、捉え方があることを、私は知らなくちゃいけない」
アル「そのための手伝いを、私達学者ができたらと思う。そうだろう、kaede?」
kaede.Tはうなずいた。
リセ「ありがとうアルフィノ!私にはまだまだ難しい話も多かったけど、歴史を学ぶことの意義みたいなのは少しはわかった気がするよ!」
アル「そう言って貰えると、長々と語った甲斐もあるよ。リセならいつか必ずエオルゼアの歴史を見通すことができる。私が保証しよう」
kaede.Tはリセを応援した。
リセ「ふふ、2人ともありがとう!私、頑張るね!」
【完】